神聖ローマ帝国(菊池良生)感想

 帯がふるっているんで捨てられません。曰く「この国にフランスは嫉妬し、イタリアは畏怖し、教皇は愛し、そして憎んだ」。
 世界史を学んだ人なら必ず聞いたことがある神聖ローマ帝国。なんだか素敵な響きであるが、教科書を読んでみても素敵なことはなく期待はずれで終わってしまう。ま、古代ローマだって教科書読んでも何のことやらさっぱりわからないので仕方ないのだが、神聖ローマ帝国のほうはそういう問題ではなく、歴史に詳しい人でも、なんじゃいな、という感じらしい。その謎の帝国に関する入門書。
 1年以上前に読んで細かいところは把握しきれなかったが、印象的な言葉がいくつかあったので最近もう一回読んでみた次第。記憶に残った部分についてのみ書くので、本書の内容と全く違うことを書いている可能性があるのであしからず。


 まずはやはり名前だな。神聖ローマ帝国。冒頭のあたりで啓蒙思想ヴォルテールの「神聖でもなく、ローマ的でもなく、そもそも帝国ですらない」という痛快な言葉が紹介されている。私はもうこれだけでお腹いっぱい。満足です。さようなら、と言いたくなる。
 とりあえず「神聖」と「ローマ」のそれぞれ解釈を書いてみる。
 「神聖」というのは前に読んだときは、西ローマ帝国崩壊後のカトリック教会の世俗での守護者、という意味と理解していたが、最近読み直したらちょっと違った。「神聖」という言葉が使われたのは帝国が教会の権力から独立したものであることを示すためだったらしい(96ページ)。それ以前は皇帝の権力は、神から委託された教皇が与える、というものだったが、「神聖」とつけることで、教皇からは独立して、皇帝自身が直接神から世俗統治の権力を委託される、ということになった。
 次に「ローマ」。古代ローマ帝国はヨーロッパ人の理想であり憧れ、というのは本書にも書いてあるが、そこら辺の感覚を日本人が理解するにはローマ人の物語を読むのが手っ取り早いかと。世界を共通のシステム(法律)で支配する、というあたりかと思うけど、中世ヨーロッパ人の理解としてはもっと単純に世界の覇者くらいだと思う。絶対あいつら法律がどうとか考えてないって。
 古代ローマ帝国が罪作りなところは、後世の支配者に妙な欲望を植え付けたところだと思う。古代ローマ皇帝が支配した領域は俺も支配する権利がある、という論理で領土を広げようとする。特に神聖ローマ帝国の場合、教会の保護者というのが根っこにあるからイタリア支配にこだわって、内政が疎かになって結局国内もまとめられないまま歴史から消えていったんだから、なんとも。(フランスもそういう誇大妄想な傾向がある(英仏百年戦争 (集英社新書)))。もし皇帝がドイツ支配に専念していたら神聖ローマ帝国の歴史も変わっていたかもしれない。そうするとドイツはフランスと同じくらいの発展を遂げて、20世紀の世界大戦の「後進国グループが先進国グループに追いつくための戦争」という構図も崩れていたのかと想像すると、こりゃやはり甚大だ、とは妄想のこと。


 あと印象に残った言葉は「死亡診断書」と「埋葬許可証」という2つ。完全に支配能力を失った時が「死亡診断書」、その後も政治的な利用価値を見いだされて、いよいよいらなくなった時が「埋葬許可証」。私もこの2つの言葉を使ってみたいんだけど、そんな機会ないよね、普通。


 他には、やはりフリードリヒ2世は外せない。話し合いで十字軍成功ですからね。現在の政治においても語られるにたる人物だと思うけど語られないのは、人々が無知なのか、成功はともかくそれ以外に大きな難点があるのか。


 最後に、本文中に出せなかった本書のアマゾンへのリンクはこちら。神聖ローマ帝国 (講談社現代新書)